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第1部 二章【闇メン】その5 第一話 本物の強者

作者: 彼方
last update 最終更新日: 2025-10-29 18:30:00

26.

ここまでのあらすじ

 ウェイトレスのヤシロ、絞りの尾崎、裏メン新田、元プロ工藤、おじいちゃんオーナー日吉、プロの姉である蘭、そして最強雀士のコテツ。行く先々で強い奴らに出会い椎名は経験を積んでいく。

 強者たちの麻雀を吸収して闇メンとしてさらに強く逞しく成長していく椎名だった。

【登場人物紹介】

椎名良祐

しいなりょうすけ

主人公。礼儀正しく清潔で爽やかな青年。堅苦しい性格ではなく、場面場面での使い分けが上手いだけ。基本的には気さくな人間である。渡邉クリエイター派遣会社社員。

渡邉二郎

わたなべじろう

椎名の勤務する会社を設立した社長。人を見る目があり一目でその人の人となりを見極める。麻雀はそんなに上手くはない。

福島社

ふくしまやしろ

表の顔は喫茶店の気さくで優しい美人ウェイトレス。しかし、ひとたび卓に着くと人が変わる。知る人ぞ知る凄腕雀士。勝つためにはあまり手段を選ばない。勝利こそ正義という女性には珍しいタイプ。

福島創

ふくしまそう

喫茶店『えにし』の二代目マスターでヤシロの父。アイスコーヒーを美味しく淹れる名人。麻雀の腕もプロ顔負けの超一流。

尾崎洋平

おざきようへい

勝田台周辺の雀荘で遊んでいる遊び人。毎日遊んでいるが本業は会社経営者。絞りを得意とし、下家を絞り殺すのが趣味という我慢強い打ち手。

工藤強

くどうつよし

元競技麻雀プロの雀ゴロ。面倒見がよくプロをやめた今でも弟子が多い。スキンヘッドで見た目は怖い。

神戸蘭

かんべらん

麻雀プロの姉。直感力に優れた麻雀を打ち、罠に引っかかることがほとんど無い。椎名のことを気に入ったらしい。

南上虎徹

なんじょうこてつ

最強クラスの麻雀打ち。色々な雀荘にふらっと現れてはバカ勝ちして帰る男。ネット上で戦術を書いて無料公開している『ライジン』というアカウントと同一人物か?

その5

第一話 本物の強者

 今日もまた『ラッキーボーイ』に出勤だ。最近はずっと西船橋のこの『ラッキーボーイ』への出勤ばかりだ。はっきり言って闇メンを雇うのは安くないから(会社に行くお金がいくらなのかは知らないが闇メン本人への時給1000円以外にもお金がかかっているのは確かだ)そんな事するよりは普通の従業員を募集すれば? と思うが、気に入ってくれたのならそれは嬉しいことだ。

 出勤してしばらくすると今日も工藤ツヨシが来店した。先日は旗色悪しとみるや勝ちが溶ける前に退散した工藤だったが今日の戦いはどうなるだろうか。

「やあ、工藤さん。今日はたくさん打てるのかい?」

「椎名くんか。今日は一日中暇なんだ。飽きるまでやろうじゃないか」

 お客さんも来たのでゲーム開始

東家 一般客

南家 工藤

西家 椎名

北家 従業員

 工藤と椎名は工藤の下家に椎名という座順だったのでマスターはその間に椅子を引っ張ってきてベストポジションで観戦していた。

 そこで見て初めて分かる、椎名の麻雀の精密さ。

(これは強すぎる)マスターはそう思ったという。

 椎名は別に連勝はしてなかった。しかし、必ずオーラスのトップ争いに参戦しており圏外に落ちたりしない安定した強さを見せつけた。

 一方、工藤はラスだけは取らないようにしようという考えが見て取れる仕掛けやダマが多くそこに椎名と工藤の差が現れていた。

 工藤のような強さも確かに厄介だが本物の強者はどんな困難も乗り越えてNo. 1を目指すものだ。そんな力強い麻雀を見せてくれるのは、椎名だった。

 そして、この手

椎名手牌 ドラ4

四伍六②②③③③34(888)

 この局に椎名と工藤の格付けが済んだなと感じた決定的な瞬間をマスターは目撃する。

 椎名の捨て牌には5巡目に伍萬が捨ててある7巡目。ここに椎名は伍萬を引いてきて手の内にある方の伍萬と交換した。

 そして親の工藤は三萬を引いてくる。

工藤手牌

②③⑤⑥⑥⑦789東東南南 三ツモ

(三萬は、切れない……。5巡目に一度手から伍萬を出している椎名がさらにもう一度手から伍萬。一度目はテンパイしたから。二度目は赤伍萬を引いたから交換したと考えるのが妥当だ。だとしたらそこの跨ぎ牌はド本命だ。止めるしかないな)と三萬を止めて一旦狭く構える工藤。

(ピンズ上は育ちそうだったんだがな……)

打⑥

 すると工藤の次のツモは七萬。

(同じ理屈でこれもムリだ。どちらかは当たる。どちらかは通るが、どちらかは当たる。どうする。南場の親だが……)

「すいません……」

 長考に入る工藤。どちらかを押さないとトップは取れない。それは分かるが、どちらも椎名の本命に見える。

(……怖い。放銃や点数がということじゃなくて。これ以上ラスになったら。今日もまた椎名に負けるとしたら。いよいよプライドが砕かれる気がして…… 押せない――)

打東

 工藤はどちらも押せないとし諦めたのだ。椎名の伍萬の空切りによって。

「ツモ! ゴットー!」

(嵌められた! まさか黒から黒の空切りで本命牌を作り出すとは…… とんでもないな)

 この日この局を境に工藤と椎名の決着がついたと、マスターと工藤本人は感じてしまったという。椎名はそんなことは微塵も感じていなかったのだが。知らない所で他人を倒して、格付けを済ませている。天才とはえてしてそういうものなのであった。

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